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札幌地方裁判所 昭和44年(行ク)16号 決定

申立人

渡部大二

代理人

彦坂敏尚

外三名

被申立人

札幌郵政局長

村上達雄

指定代理人

岩佐善巳

外八名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一申立の趣旨および理由〈省略〉

二被申立人の意見〈省略〉

三〈証拠〉

四当裁判所の判断

1  申立人が、本件処分の取消を求める訴(昭和四四年(行ウ)第三一号)の提起に伴い本件申立に及んだことは記録上明らかである。ところで、右本案は人事院の裁決を経ず、かつ疏乙第一号証により認められる人事院に対して審査請求がなされた昭和四四年九月三〇日から三ヵ月を経過する以前に提起されたものであるが、現在においては右審査請求の日から既に三ヶ月を経過しているから、右取消の訴は行政事件訴訟法八条二項一号により適法であり、これに伴う本件申立もまた適法である。

2  次に、本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性の有無について判断する。〈疎明資料〉によると、申立人は、昭和四一年三月高校を卒業、同年九月北見郵便局に採用された職員で、本件処分当時一ヶ月本俵二四、〇〇〇円、特殊勤務手当三二八円、夜勤手当九九二円合計二六、二九二円の給与を支給されていたが、本件処分によりその支給を絶たれ、その後は全逓より救済規定により給与補償として毎月本俸相当分二八、五〇〇円(本件処分後に郵政省職員に対して行なわれたべースアップ分を含む。)、諸手当相当分五、〇〇〇円合計三三、五〇〇円の支給を受けていることが疏明され、また(疏明資料)によれば、申立人は、本件処分後給与補償のほか救済規定により全逓から免職見舞金として五、〇〇〇円を受領したほか本件処分の係争費用として相当額の支給を受けていることが疏明される。この事実によれば、申立人は、本件処分後もそれ以前に支給されていた給与に匹敵する給与補償の支給を受けており、しかも、〈疏明資料〉によると、救済規定による収支は特別会計とされ、その資金として全逓の組合規約により所属組合員から毎月六〇円が徴収され、更に必要ある場合には決議機関の決定を経て臨時資金が徴収されることとされていることが疏明されるところ、今後ともその徴収に著るしい支障が生ずるとは考えられないから、給与補償の継続的支給についての資金的裏付も存するものということができる。従つて、本件処分により申立人が給与の支給を絶たれたことにより回復困難な損害を蒙るということはできず、結局現時点においては本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性は存しないものといわざるを得ない。なお〈疏明資料〉によれば、申立人は、本件処分により、それまで一ヶ月三八〇円の寮費を払つて住んでいた北見郵便局の青雲寮から立退くことを余儀なくされ、以後下宿に移住し、毎月下宿代として一一、〇〇〇円を支払つていることが疏明されるが(本件処分の効力を停止することにより申立人が当然に郵政省の職員寮に居住しうる地位までも取得するかどうかは別として)、前記〈疏明資料〉によれば、前者が部屋代のみであるのに対し、後者が食費(二食分)を含んだものであるから、右の事実は未だ本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性を肯定する事由と認めることはできない。

3  なお、申立人は、前記給与補償は臨時的応急的なものである旨主張し、〈疏明資料〉によれば、給与補償の額は、第一審判決がなされた時点で再検討され、また、それまでに申立人が他に職業を得た場合はその支給が打切られるに至ることが疏明され、その意味では右給与補償が臨時的、応急的な性格のものであることは否定し得ないが、少くとも、現時点においてはそのような形にしろその支給を受けているのであるから、右の事実をもつてしても未だ本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性があるものとは認めがたい。

また、〈疏明資料〉によれば、申立人が本案で勝訴すればその後の支給は打ち切られ、既に支給を受けた額を組合に返還する義務を負うこととなることが疏明されるが、申立人勝訴の場合にあつては、本件処分後判決までの給与を遡つて支給されることが予測されるから、申立人は、これにより組合から支給を受けた補償を返還することができるのであり、判決後は職員として給与を支給されることが予測され、これにより生計を維持することができるから、申立人の右主張も本件処分の効力の執行を停止すべき緊急の必要性を裏付けるものではない。また、本件処分により、申立人にある程度の精神的負担が生ずることも想像し得ないでもないが、これをもつて直ちに回復困難な損害であると断ずることは到底困難であり他に本件処分により回復困難な損害を避けるため本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性を肯認すべき疏明はない。

従つて、本件申立は、その余を判断するまでもなく理由がないことは明らかである。

4  よつて、本件申立を却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する(松野嘉貞 鈴木康之 岩垂正起)

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